小学生の時、ずっと犬が飼いたかったので、父が、マンションから戸建てに引っ越すから犬飼っていいよ、といったときには、なんだか世界が変わるような幸福感につつまれたのをよく覚えている。
10歳になるとしの、春。

引っ越して、しばらくして、(一ヶ月くらい、だったかな?)、子犬がいるって教えてもらったから、見に行こうって母だか父だかにいわれて、行った。いたのが、写真のひなちゃん。すでにこのサイズ。

生後六ヶ月です、子犬です。
いま保護してて譲れるのはこの子だけなの。

と、捨て犬の保護活動をしているおばさんは言った、らしい。
部屋の奥からは、あきらかに子犬、と言った感じの鳴き声がしていた、らしい。
わたしはあまり覚えていないのだけど。

そしてこの犬を見て、両親は、子犬じゃない!と衝撃を受けた。小さくない!
わたしと妹は、かわいいかわいい、といっていた、らしい。
ころころした子犬、を、特に求めてなかったらしい。(確かにいまも子犬は子犬でかわいいけど、昔もいまも大きい犬が好き。でも捨て犬しか飼わないポリシーなので、大きさなんか選べない。)

犬は一緒に家に帰って、14歳で息をしなくなるまで庭にいることになった。

この話をはたちを超えてからひとに話した時、なんでこの犬と一緒に帰ったのかってわかった、気がした。
多分、選ぶ、という発想がなかったのだと思う。
はいこれがあなたと一緒に過ごす犬ですよー、と言われたような。
交換してくれ、とは思わなかった。
おお、待っていたのはこの子だったのね、というような感じ。…かなあ。

連れて帰ろうと車の荷台に乗せたが、あまりに車に酔うので(よだれがとまらず気持ち悪そうだった。当時のうちの車は、4ナンバーマニュアル、ツードアの車だった。乗り心地は良くなさそうだ)、子どもの足で歩ける距離で妹と犬と車をおりて、歩いて帰った。
途中、予想外に起きた人生初の犬の散歩だったので(と言い訳させてもらう)、ウンチされてあせった。

よく一緒に歩いたな。最初は赤い首輪だったけど、そのあとから緑を、よくつけてたっけ。

それから、14年と半年経って。
すごく寒い2月の終わり、すこし前から、後ろ足は動かしづらそうだったけど、ついに庭から外に出る段差がきつくなったようだった。
抱っこして下ろしても、引きずるように歩くようになり、食事を取らなくなり、水を飲まなくなった。

この頃、ぼけてきたのか、いつも散歩に連れて行く母にかみつくようになった(といっても、動きはそんなに早くないし、顎の力もないようで、かみつけていないのだけど)
それなのになぜか、わたしには噛みつかなかった。

あまりに寒いから、夜だけ玄関に入れた。玄関も、相当寒いけれど。
玄関に入れた次の日から、どんどん弱っていって、そのうち立ち上がれなくなった。庭では一度もおしっこしたことがなかったのに、そのままもらすことしか、できないようだった。ダンボールを敷いてタオルを敷いて、替えるようにした。

その週の金曜日。水も飲まなくなって、5日くらい経っていた。すごく寒くて、とても寒くて、もうきっと死んでしまうから、暖かい部屋で一緒にいようと思った。

それまで14年間、室内に入れたことはなくて、たまに冗談で引っ張り上げると、足元が土じゃないのが滑って動きづらいのか、戸惑った顔で庭に戻って行った。
そんなひなちゃんを、リビングに入れた。

夜中じゅう、石油ストーブをつけていた。利根川の北側、夜は寒い。
夜中の3時頃。もうずっとそんなことなかったのに、わん、わん、わん、わん、わんー、とないて。
眠くて眠くて眠りかけながら、いるよいるよ大丈夫だよー、と寝ぼけて抱きしめたりして。
母はずっと眠らずに、リビングにいた。

6時前、いつの間にか寝ていた。
母に名前を呼ばれて、目が覚めた。
まーちゃん、ひなちゃん、いま死んだと思う
と言われて。

父は、死ぬなら週末にお願いね、なんて冗談半分本気半分でいってたけど、ひなちゃんの死んでしまった日にお休みで、嬉しかったのではないかなあと、ちょっと表現は変かもしれないけれど、思う。
たった7キロになってしまっていたひなちゃんは、その日のうちに骨になって、庭の片隅に埋まった。


と、いうようなことを、先月知り合った先輩の家にいる保健所出身のわんこ、の写真を見せてもらったら、なんだか思い出してしまった。

実家には、いまも一匹、昔隣家のラブラドールが拾ってきた7匹の捨て犬、のうちの一匹、がいる。
ひなちゃんといい今いる犬(まめたという名前)といい、捨て犬をもらう家というイメージが出来上がりつつあるようで、どう?いま、ねこちゃんいるんだけど、などと、保護活動をしている人に声をかけられたりしてしまうこともあった。

東京に帰ったら、猫でも、飼いたいなんて妄想してるけど(なんてったってたちゅごんはいまはやりの一人っ子の可能性が高いし)、旅行とか、いやいやそもそも日常のお世話とか、大変になるよねえ。

ああまめちゃんに会いたい。
まめちゃんを理由に、両親を避けるのをやめようかしら、と、思うくらいに。
うーん。悩むなあ。