先日、思い立って1人で「ザ・サークル」を鑑賞してきました。

Facebookのタイムラインで、試写会に行ってきたブロガーさんの感想文が目に入ったため。

わたしもブログ歴3年、SNS中毒患者としてはみないわけに行くまい。

■映画館は休憩にうってつけ

それと、たぶん久しぶりに家事育児多めの一週間を過ごしたせいで、気の抜き方がわからなくなっていた。「どこで休憩したらいいかわからない」そんな状態だった。

暗闇でスマホもさわれず目の前のストーリーしか関心を向ける所のない、映画館は、その日のわたしにとって休憩に最適の場所だった。

息子のたちゅごんはうるさい。

常に何か効果音や会話やバックミュージックを呟きながら、ブロックを組み立てたり、組み立てたロボットや飛行機を飛ばしたり、最近はかるたをしている。

最近はお願いすれば30分くらいは塗り絵、お絵かき、絵本鑑賞で静かにもできるが…限定的である。

気がつけばいつまも話しかけてくる。わたしのことが好きなんだろう。光栄だが、換気扇の音も苦手なくらい、聴覚過敏な自分は時折共同生活に苦労する。


■映画の感想

さて本題の映画の感想。

久しぶりにエンタメ色の強い作品を見たな、という感じ。

先日観たのは「彼らが本気で編むときは、」、その前は「ぐるりのこと。」で、どちらも舞台も設定も、現実の延長上だ。

本作の舞台は未来、というよりはパラレルワールド。でも自動運転はまだ実現していないし、病気は依然として人類を悩ませているし、そういう意味では現実の延長だ。

その世界で、Facebookが投射されたSNSが、生活のほとんどに浸透していく様子が描かれる。その過程で生まれる疑問が浮かびがあるストーリーだ。

後味悪く感じる方もいるかもしれないけれど、わたしは楽しめてしまいました。

サスペンスとしては大きなどんでん返しはなくて、空想の世界(でもそうなるのかも)という世界がスクリーンの中に広がるので、この先の世界をただ見せられているかのような、そんな気持ちになる。ただ、「この先の世界」の細部の設定なんかは、平野啓一郎の「ドーン」には及ばないな、と感じた。

映画で描かれている「この先の世界」で自分が共感したり、これから対峙しそうだなと思った点が二つ。

・SNSに対する姿勢が身近な人と折り合わない     

人によってはインターネット上の情報が現実に流れてくること、あるいは現実の情報がインターネットに流れ込むこと、そういうシステムを受け入ることを拒む。そして不可抗力で受け入れざるをえない状況に追い込まれ、衝突する。

映画では極端な結末を描いてはいるが、その断片や同列な事象は、すでに現実でも起きているはずだ。

わたしはどちらかというとSNSに入り浸りがちなのだが、リアルな付き合いも多くその中にはあまりSNSを利用していない人もいて、エマワトソン演じる主人公が人生における主な交流相手であった幼馴染や家族に、SNSを利用した人生を受け入れてもらえない戸惑いには非常に共感できる。

・幸せの最大公約数

作品で描かれるSNSの実生活への拡張度合いは、現実より少し誇張されている。

だけど多かれ少なかれ、わたしたちはインターネットに個人情報を注入し、反対にインターネット(とつながった何か)を生活空間に引きずり出している。

公共の福祉のために個人の自由が制約を受けることがあるように、これからは「インターネット上に情報を集約することの利益」を見積もって、現実世界でしかえられない情報を、インターネットの中に供給しなければならなくなるのかもしれない。(もうすでにそうなりつつあるけども、その範囲がさらに広がるのかもしれない)


■エマワトソンがシンデレラに見えた

作品では、「自身の行動履歴が他人から確認可能になることの意味の大きさ」と同じくらい、目が離せなかった部分がある。

それは、エマワトソン演じる主人公のメイが、非正規雇用を脱出し、今をときめくインターネット事業会社に正社員で就職する…という設定だ。

この転職により主人公は様々な特権が利用可能になる。そして自分だけではなく家族も、健康な生活を手に入れる。

わたし自身には、キャリアのないなか出産を言い訳に無職を選び、その後の就職先で雇用条件が悪くなったという経験がある。さらにその後、まさにメイのように転職に成功し、有給休暇を取得できるような会社で勤務するようになった。

日本では健康保険は国保もあるし、作品が暗喩しているような高額な医療費を必要とする国とはなっていない。だけど、雇用条件が特別良いものでなければ、健康を維持するための通院や予防にコストを割くことができない。

そういう意味では、作品が描く世界と日本はなんらかわりないのだろう。

コストという表現は金銭的、時間的、両方の意味を持つ。鑑賞後たまたま「健康格差」についての本を読み始めたのもあり、この「健康の質が上がる」条件を手に入れられたエマワトソンもといメイが、まるでシンデレラのように見えたのだった。