言わずと知れたワーママのバイブル、中野円佳の著作『「育休世代」のジレンマ』をしばらく前に読了。感想がまとまらないので雑感を記録しておきたい。

わたしは同書を世間的にヒットした書籍、と認識している。内容は「大手企業で総合職」の女性の状況を調査したもの。今の日本においては相対的に若くして結婚、出産して、子育てと両立のための公的制度の活用もされている職場に勤める女性たちの話。

そんなに恵まれていてすら、妊娠出産子育てを担うべき人と目され、職場から過剰な気遣いを受け、それによりやる気を冷却され、ある人は家庭にある人はもっと働ける職場に移る、という調査結果。

彼女たちは経済的安定も人的資源(夫とか実家とか勤務先の理解とか同様の環境にいるいわば同士とも言えるワーキングマザーとか)にも相対的に恵まれているわけで、そういう頂点にいない女性にはあまり共感はされなさそう、というのが読み終わった第一印象で、著者の中野さんもそう述べている。


◼︎半分ずつの羨望と共感

わたし自身は自分を、労働の世界で頂点を掴み損ねたポジションに位置している女、と自認している。この本を、悔しさ半分、共感半分で読んだ。もしかしたらそこ、いま日本で一番良いところ、にいたのは自分だったかもしれないという気持ちで。

わたしは勤務先から得られる、長期的な経済的な安定はつかみそこねたけれど(ボーナスをもらったのは新卒で入社した最初の職場だけだ)、夫の経済基盤にのっかって若くして子供を産み育てることはできた。

同年代同学歴の「就職に成功した」先輩後輩友人に年収は及ばずとも、数社目にして勤務環境の整った勤務先の確保にも成功した。

その上で、育児をできる限り外注して、しかし手をかけたいところは必死で時間を確保して、それでいて職場でも「子供がいない人と同じくらい」時間的にも質的にも貢献を認められたいとあがいている。


◼︎本当はわたしは日本で一番恵まれた労働者かもしれない

共感半分、と書いたけれど、去年12月から勤務している職場では納得のいく業務にたくさんかかわれている。

実質的にほとんど共感できているし、むしろ同書に出てくる、夫や職場と足並みの揃わない女性よりもずっと自分の望みのままの環境を享受しているのだろうと思う。勤務先の制度や同僚上司の理解よりも何よりも、夫という育児リソースの確保が何よりも難しいのではないだろうか。

子育てをしているからといって、周囲から仕事を制限されたくないししたくない。子供を言い訳にしたくない。だけど職場の要求を全てのまなければいけないような人間関係はごめんだ。そんな全てを叶えてくれる職場にたどりついたし、それが実現できるような外注サービスや夫のリソース提供を確保した。

「悔しさと半分の共感」を抱くのは、どちらかというと前職までの自分だろう。ただそれでもやっぱり、息子の発熱と夫の出張がかぶれば、自分が自宅に止まらざるを得ないし看病ももちろんする。

そんな時は焦りを感じる。病児保育を使えば滞りなく業務に当たれるはずだ。だけど、「そこまでしてまで」業務に向かう時間を確保することが是と言えるのか、何度も自分に問いかけて、まだ答えが出ない。


◼︎そこまでして頑張る必要があるのかないのか

「そこまでして頑張る仕事なのか」と考えて、仕事を手放すケースがある、というのも同書の調査結果のひとつだ。子供との時間の価値と、仕事の価値を比べる。そこで、そこまでして頑張る必要ないな、と考えて辞めるらしい。

わたしの、キャリア設計も何もなかった社会人3年目の3社目の勤務先はPR代理店だった。そこで、今5歳の息子を妊娠した。継続勤務年数わずか10ヶ月で産休に入った。

いよいよ産休というとき、産後復帰するなら正社員は無理と言われた。

というか、そのタイミングに至るまで、産後の勤務をどうするかという話は一切なかったのだった。わたし自身も、勤めて数ヶ月で妊娠した人間に好待遇が与えられる訳はなかろうと不安で、何かを質問したり提案したりましてや要求するなんてことは考えられなかった。

わたしはその職場には正社員では戻れないと理解した。正社員でない仕事。生後数ヶ月の子供を保育園に預けてまで、「そこまでして」つなぎとめる価値のある仕事なのか、考えた。

一瞬で判断した。生まれてくる子供との時間のほうが大事、と。といっても、職場の人間関係もしんどくて、もはや育児に逃げたとさえ言ってもいい気がするけど。

そこまでして頑張る仕事なのか、自信を持ってハイっと言える給与ほかの条件を備えた仕事をしている人、どのくらいいるんだろう。

よしんば、もとがそういう仕事だったとしても、妊娠したから子供がいるからって負荷を下げられると、面白くないと感じて離職してしまうひとがいる、そんな内容も同書に記されていた。自分はやる気があっても、子育てを担当するのが自分となってしまい負荷を下げざるを得ない場合があるということも。

まるでデジャブだった。2年間の子育て専業期間つまり無職ののち、就職が叶い2年半勤めた職場ではたびたび「子供がいるから無理しなくて良いよ」という提案をいただいた。はねのけることは、できなかった。はねのけたかったけども、そのために何ができるのかわからなかった。


◼︎たぶん年収が関係してる?

いまわたしはそのフェーズを乗り越えて、今は「そこまでして」したい、といえる仕事にありついた。土日祝日有給休暇がある身だという、労働条件も関係しているだろう。なによりも、周囲はわたしに期待してくれる。子供がいるかどうかをいい意味で度外視してくれる。

だけどそんなわたしでも、「そこまでして?」と悩むシーンが、子供の病気だ。病児保育を頼んでまで、わたしは仕事をとるべきなのか?

もし年収が500万だったら。600万だったら。800万だったら。きっとどこかにその区切りがあるんだろう。

もしかしたら男性(同じ学歴であれば女性よりもおしなべて高給らしい)は、給与とそれを秤にかけて、「そこまでして」優先しなくて良いものとして判断し、子育てにリソースを割かないのかもしれない。

と、勝手な考察を加えたところで、本日のまっかちんの読書感想文は、おしまい。